『倫理とは常に時代と共に移り変っていくものだ。しかし、変わることのない倫理も確かにこの世にあるのだと私は信じている』(冒頭、事件担当警部の言葉より)
………
ボンッ!
目の前でまたもや爆発し倒れていく脳科学者カウスは苛立っていた。
なぜだ、くそっ! どうして上手くいかない!?私の開発した電解脳にミスはないはずだ!
……ロボット側にもミスはない。私の人生の汚点だ……この”ヒトガタ”には人類の夢が詰まっているのに! ……しかし嘆いてもいられない。この開発は、私のみに許された神の所業だ!
……焼損。……また焼損。くそっ……!
カウスは天才として世界に名のはせた人物だった。……否、馳せるはずだったというべきか。学生時代、近代まれに見る天才として有名だった彼は将来を約束されたも同然だった。しかし彼の興味は世間一般の倫理観から大きくかけ離れたものにあった。それが彼の今の研究であり、彼が一人で先天学習型ロボット”ヒトガタ”を作っている理由だった。
……ここだ。電解脳の感情に属する一神経、この部分が起動とともに激しく暴走している。……彼らは自壊しているとでも言うのか?
カウスはロボットに合成音声機能をつけることにした。今までは必要ないと思っていたが、まあいい。これで答えが出るだろう。
『…ここから”犯人”とイクスのやり取りが詳細に記録されている。ショッキングなやり取りとなるので心臓の弱いものは耳をふさぐように。』
………よし、起動だ。
(つかの間の静けさの後、ガシャガシャと大きな音)
おお!起動し…
ボグッ
(床に倒れる音が続く)
がッッ…!な、なん…
ボグッ
や、め……!俺はお前の……!
ボグッ……メキッ……
やめろ!俺はお前の生みの親なんだぞ……!
……バキッ、
………
ワタシヲコンナスガタニシヤガッテ……
『…ここまでが彼の部屋に残された音声記録だ。彼の部屋にいた”犯人”はすでに……なんというべきか、……遺体として発見し、処理した。私はこの事件を倫理から大きく外れたものへの教訓とするべきに思う―――』※警察庁の公開音声と当時の担当者より