景色

明日はどんな天気になるのだろう。窓から見える景色を見ながら、ふとそう思う。
この代わり映えのしない景色が、天気によって変わるというのならば、それはそれで面白いと思う。たまには違う景色も見てみたいと思うのは人間の性だろう。
すこし痛む体に鞭を打ち、私は立ち上がった。ここのところ、歩いていなかったから体がなまっているのかもしれない。
ほんの少しの距離を歩いただけなのにもかかわらず、息は上がり、汗が流れ落ちる。
もうベッドに戻ろう。そう頭の中で私自身が告げるが、私はそれを無視する。たまには無理をしてでも違う景色を見てみたい。その欲求みたいなものが、私を動かしていた。
すこし廊下を歩いたところに階段がある。私はそこに向かって歩いているはずなのだが、一向に距離は縮まらない。それどころか、だんだんと離れているようにも見える。
おかしいなと思っていても、私の体は歩くことをやめない。まるで、誰かに操られているかのようだ。
操っているものの正体はわかっている。私自身だ。だが、その私の意思を無視して、私の体は動く。不気味な恐怖が、少しずつ私の心に生まれてくる。
帰らねば。
そう強く念じても、体は前に進み続けようとする。長距離を走ったように息は荒く、汗は滝のようにあふれては床に水たまりを作っている。
そこで私はある物に気がついた。さきほどからずっと、何かが私の背中を引っ張っているのだ。
私はその何かの正体を確かめようと、振り返った。しかし、そこには何もなく、ただ窓から見える景色があるだけだ。
太陽に照らされた木々が、風に揺られてがさがさと音を立てている。
何の変哲もない景色。ただ木が目の前に広がっているだけだ。本当にそれだけだ。
ただ、その景色を見ていると妙に安心して、胸の中にあった恐怖がゆっくりと消えていく。それに伴い、息もゆっくりと落ち着いて、汗もすっかり引いていた。
帰ろう。
そう思い、私は体を元に戻す。目の前には、廃病院が広がっていた。
ああ、そうか。
そこで私は思い出す。私自身がすでにこの世にいないことを。
あの部屋で、私は死んだのだ。何故かなんて覚えていない。ただ、代わり映えのしない景色をずっと見ていて、私は部屋の周辺から離れられなくなってしまっていただけなのだ。
原因がわかってしまえば、怖いものなどない。私はゆっくりと部屋に向かって歩きだした。
ただ、そこに広がる景色が、人が見られないものではない景色でも、人が見られて私が見られない景色でも、代わり映えのない景色では退屈するものだ。
ああ、この場所に誰かこないだろうか。
もう、同じ景色には飽きてしまった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です