一年城と平和戦争

僕の心は―暗い深海の中にいた。顔に照り付ける光線が当たっている場所と裏腹に、逆に暗闇に引き込んでいく。

なんでこんなことに? 僕はただ、日常を楽しく過ごしていたかっただけなのに。ただ、平穏がほしいだけなのに。すべてはやすやすと壊れた。

悪魔は平然と、其のすべてをその鋭利な槍で貫き、砕いていく。

ああ、悪魔の声が聞こえる。平和を砕く悪魔の声が。

ここにいればまだ、いくばくかの抵抗はできるだろう。僕の心はやすやすと奴らに渡さない。抵抗を続けるのだ。最後の一人になるまで。

「もう…だめかもな。」

決意と裏腹に力のない言葉が口からこぼれる。奴らが止まることはない。一年も前から、それは決まったことだった。

僕らは―僕は。奴らに征服される。

悪魔が遣わし光線はさらにその強さを増していく。悪魔はそれに合わせ怒号を強めていく。早く、早くと声が、近く訪れる落城を狙っていた。

騎士たちは後ろ手に注ぐ光線に次々と膝をついていく。僕は体に布地をまとい、何とか光線を避けようとうずくまる。

すべてが悪夢であってほしい―――。

どうか平和が続いてほしい―――。

それは一年前も紡いだ心からの祈り。―――繋がるはずのない抵抗の意志だった。

布地の奥の光線がさらに強くなったのを感じる。僕の騎士たちは光線に焼かれ、身を縮ませているだろう。悲しみより先に恐怖が体を支配する。それと同時に胸のあたりがじわりと弛緩していく。

もう…いいだろう。

「諦め」が体から力を奪っていく。僕の臨んだ平和なんてそんなものだったんだ。もはや助けることのかなわない者たちが周りを取り囲む今。現実に目を背けてどうする? どうしようもないじゃないか。

何も、変えられない…。

僕はかぶった布を脱ぎ捨てようと頭をもたげ―――ふと、動きを止めた。こんなことが前にもあった。それは―――。

それは―――記憶。

過去に紡がれた敗走の苦々しい記憶。幾度となく悪魔に翻弄され、意志のないままに従って生きていた奴隷。一年前の記憶―――

次こそは……! そう思ってきたはずだろう?

なすすべもなくやられた過去に誓ったはず。もう、負けないって。未来をつかみ取るんだって。思うままに生きるんだ!

そうだ。僕は―――過去の自分を力にして、未来を変える!

僕は布を強く握りしめ、悪魔に向かって言い放つ。

「もう、これ以上はいかないぞ!」

決死の覚悟を持って言い放つ。もう、僕は動かないぞ。何があろうとこの城は錠を開くことはない!

………?

悪魔の声が聞こえない。なり続いた怒号が、やんだ。悪魔は去ったのか?

すると、さっきまでとは違う小さな、小さな声で。しかしはっきりと、こういった。

「……学校行かないならインターネット解約するよ。」

………ガチャッ。

こうして城…もとい、夏休み明けのベッド上の逃亡劇はいつも通り幕を閉じたのだった。

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