ふと、夜空を見上げる。そこには月が浮かんでいて、星が瞬いていた。月明かりで見える星の数は少ないが、それでも十分な夜空だった。
ここは山の中だ。街灯もなく、民家すらない。ときどき山兎を見ることが、今日は見ることができなかった。そんな山であるから、車も通らない。星空を撮るのには、最適だった。
私は、車からカメラと三脚を取り出すと、路肩に設置する。本来であれば、好ましくないのだろうが、そんなことは気にならなかった。
その後、何枚か写真を撮ると、私は車に戻った。エンジンをかけると、その音でさえ大きく聞こえてくる。
やはり、夏の山はいい。静かだし、木々を見ていると和む。雪も降っていないから、凍結を気にすることもない。本当に気楽な旅ができる。
これまで何回か違う場所に行ったことがあるが、メンツによっては最悪な旅だったこともある。何度か一緒に行く友人とは気が合うのだが、時間が合いづらい。だから、今日は一人なのだが。
帰り道、車を走らせていると、ふと倒れこんでいる人影があった。
どうしてこんな山道に? そんな疑問があるが、見つけた以上助けるべきだろう。そうおもい、私は車を止めた。
その人影はどうやら女性のようで、なおさら疑問だった。この山道は少し有名な山道だ。心霊スポットも近くにあるため、結構たちの悪い人がいる。そんな場所に、女性一人で来るとは思えなかった。
「どうしました?」
そう声をかけると、女性は返事をしない。触ってみると、体は冷たい。
死んでいる。その単語が頭に浮かんだ。
警察に電話をかけようと、携帯を取り出す。しかし、電波が届いてなかった。
仕方がなく、私は車を走らせる。電波が届く場所まで向かえば通報すればいい。友人がいれば、どちらかが残ればいいのだが、あいにく私は一人だ。
しばらく車を走らせるが、一向に山道を抜けない。同じような景色ばかりが続いていく。ときどき車を止めて電波を確認してみるが、やはり圏外だ。
どうすべきか、そんなことを思いながら車の中で空を眺めていると、電話が鳴った。
おかしい。今止まっているところは圏外だ。それは先ほど確認した。恐る恐る見てみると、それは私の友人だった。電波も入っている。もしかすると、電波の入りが悪いだけで、時々つながるのかもしれない。わずかな希望をかけて電話に出た。
「もしもし」
しかし、一向に相手からの返答はない。やはり電波が悪いのか。
「おかしいな」
電波を確認するために、電話を耳から離した。
そこには不気味な文字で、「貴方はここから出られない」と浮かんでいた。